大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 平成元年(ラ)43号 決定

抗告人 上田勝利 外3名

相手方 上田稔 外3名

主文

一  原審判を取り消す。

二  相手方らの高松家庭裁判所観音寺支部昭和61年(家イ)第○○号遺産分割調停申立ては、平成元年2月9日調停不成立によつて終了した。

三  抗告費用は、相手方らの負担とする。

理由

一  一件記録によれば、本件遺産分割審判の申立て(調停の申立てであつたが、調停が成立しなかつたため原裁判所において調停申立てのときに審判の申立てがあつたものとみなしたことによる。)は、被相続人上田幸之助(本籍・香川県○○郡○○○町大字○○×××番地・昭和59年5月8日死亡)の遺産につき、いずれもその子である相手方らが抗告人らを相手取つて分割を求めたものであること、ところが、相手方らが弁護士○○○○を代理人として申し立てた調停申立書並びに手続中での主張によると、相手方らは、被相続人幸之助が昭和54年8月7日自筆による遺言書を作成していること、及び、右遺言書には、「原審判書別紙物件目録一記載3の土地を相手方上田稔に、5の土地のうち5畝を抗告人上田信之に、その余の土地を全て抗告人上田忠孝に相続させる」と記載されていることを前提として、相手方らの遺留分(各自16分の1)が侵害されたので減殺請求権を行使し、右請求権行使後の共有状態を解消するため分割申立てに及んだものであること、調停は平成元年2月9日不成立となつたが、原審は右調停申立てを家事審判法26条1項により遺産分割審判の申立てとみなして審判に移行し、原審判がなされたことが明らかである。

二  然るところ、相手方らは、被相続人上田幸之助の自筆証書遺言(この遺言書の存在することは記録によつて認められる。)は、幸之助の自筆ではないとしてその有効性を争うのであるが、当審での鑑定人○○○○の鑑定結果によれば、右遺言書は被相続人幸之助の自筆によるものであると認められる。

三  そうであれば、本件では被相続人幸之助の遺産については、右遺言により全部指定分割され(記録によれば、遺言の内容は前示一に記載したとおりであることが認められる。)共同相続人間の協議により分割されるべき遺産は残存していないものというべきである。そうであれば、当事者の調停申立てが遺産分割と題してされたとしても、その実質は民法258条に基づく分割請求であつて、本来的には家庭裁判所の管轄に属さないものであるから(その点では本来家事調停にも馴染まないものといえるが)、調停が不成立となつた場合において審判に移行するものではなく、調停不成立として事件は終了するべきものである。

けだし、遺留分減殺請求権を行使した結果、遺産に関して生じた共有関係は、当該特定財産の承継者と減殺請求した者との共有関係であつて、家事審判の対象となる民法898条の相続財産の共有(法定相続分ないしは遺言によつて決められた相続分による共有)ではないから、これが共有関係の解消を求めるには、地方裁判所に対する民法258条に依拠するところの訴によらなければならないものだからである。

四  よつて、相手方らの申立てに対し遺産分割の審判をした原審判は不当であるからこれを取り消し、相手方らの遺産分割調停申立ては、審判に移行することなく調停不成立によつて終了したからその旨宣言することとし、抗告費用は相手方らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 山口茂一 井上郁夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例